小さなお子様をお持ちのお母様へ
2025.01.20
エナメル質形成不全症とは?
エナメル質形成不全症(MIH)とは、エナメル質が生まれつきモロい状態のことを言います。主に永久歯の前歯と6歳臼歯に見られることが多く、黄色っぽい変色が特長です。この病気の原因としては、「妊娠中の母親の疾患や服薬」「出産時の障害」「早期産」「生後1-3年以内の疾患や抗生剤の投与」など様々なものが挙げられていますが、どれも決定的なものとはされていません。要するに、「よく解っていないことが、まだまだたくさんある分野」とも言えます。
どのくらいの子供に起こる病気なの?
先ほど、前歯と6歳臼歯でよく見られるとお伝えしましたが、大きなトラブルになるのは6歳臼歯です。エナメル質形成不全症により柔らかくモロい状態になってしまっているエナメル質、これに大きな噛み合わせの力がかかることによって、歯自体が欠けてしまうリスクがあります。これは歯自体の防御力の問題なので、どれだけ綺麗に歯磨きをしていたとしても、回避できないことも多いのです。2012年4~6月、日本の千葉県内にて行われた、7~12歳の児童3,348名に対する大規模調査では、お子さんの「10人に1人」がエナメル質形成不全症に罹患していることがわかりました。「子供の虫歯は親の責任!」と言った風潮がある中で、「ちゃんと仕上げ磨きまでしているのに、なんで虫歯になるのだろう・・・。」とお悩みのお母さんも沢山いることと思います。しかし、エナメル質形成不全症の場合は、どんなにしっかりケアをしていても、他の歯に比べて虫歯になるリスクはどうしても高くなってします。
▼歯の生え変わりの時期に要注意
エナメル質形成不全症の原因にはさまざまな要因が考えられています。その中でも代表的なものの一つが「ターナーの歯」です。ターナーの歯とは、乳歯の外傷や虫歯が原因で、次に生えてくる大人の歯(永久歯)のエナメル質が正常に形成されず、欠損や弱化が生じてしまう状態を指します。
例えば、乳歯が外傷を受けた際、その衝撃が顎の中で成長中の永久歯にまで影響を及ぼし、エナメル質の形成に障害が起こることがあります。また、乳歯の虫歯が進行して歯髄に達すると、その感染が成長中の永久歯に伝わり、結果的にエナメル質が正常に形成されないこともあります。このようなケースでは、永久歯が生えてくる際に表面に白斑や欠損、あるいは質の弱い部分が見られることがあり、これが「ターナーの歯」として現れます。
◎ターナー歯が抱えるリスクについて
ターナーの歯は見た目の問題だけでなく、エナメル質の強度が低下しているため虫歯になりやすいというリスクも抱えています。そのため、乳歯の段階での適切なケアが非常に重要です。特に、乳歯の虫歯や外傷には細心の注意を払い、早めに治療を行うことで、次に生えてくる永久歯への影響を最小限に抑えることが求められます。
ターナーの歯を防ぐためには、まず外傷を予防することが重要です。例えば、運動中や遊びの際には、転倒などのリスクを減らすために適切な保護具を使用することが推奨されます。また、乳歯に虫歯が発生した場合は、早期に適切な治療を受けることが不可欠です。虫歯が進行すると、永久歯に悪影響を与える可能性が高まるため、日常的なブラッシングやフッ素塗布などを通じて虫歯を予防することが大切です。
さらに、ターナーの歯が見つかった場合には、適切な対策を講じることが必要です。例えば、エナメル質の欠損が軽度であれば、フッ素塗布やシーラントによって保護することで、虫歯の進行を防ぐことが可能です。欠損が広範囲にわたる場合には、必要に応じて詰め物や被せ物による修復治療が行われます。
▼生活習慣とエナメル質形成不全
その他にも、エナメル質形成不全の原因は遺伝的な要因や生活習慣にも関係していると考えられています。喫煙や過度なアルコール摂取、栄養不足、ストレスなどが影響を与えることがあるとされています。特に成長期のお子さまにおいては、外傷や虫歯だけでなく、生活習慣全般にも気を配ることが大切です。歯の発育が進む時期には、バランスのとれた食事、規則正しい生活リズム、十分な睡眠など、健康的な生活習慣を維持することが、エナメル質形成不全を防ぐためにも役立つと考えられています。
◎歯の裂孔にも注意が必要
さらに、歯の生え変わりの時期には「裂孔(れっこう)」、いわゆる歯の溝の深さにも注意が必要です。特に上あごの前歯の裏側や下あごの6歳臼歯の頬側には深い溝が形成されやすく、これが虫歯の原因となることがあります。裂孔が深い場合、そこに食べ物のカスやプラークが溜まりやすく、虫歯のリスクが高まります。この裂孔は肉眼で確認するのが難しいことが多く、特に子どもの場合は定期健診で歯科医にチェックしてもらうことが重要です。定期的なフッ素塗布やシーラントと呼ばれる予防処置を行うことで、虫歯のリスクを軽減することができます。
▼適切なケアで健康な永久歯を維持
生え変わりの時期における適切なケアは、後々の歯の健康に大きな影響を与えます。エナメル質形成不全を防ぐためには、外傷や虫歯の予防、健康的な生活習慣の維持、そして定期的な歯科健診が不可欠です。特に歯の溝や裂孔のケアについては、定期的な検診で早期に問題を見つけ、適切に対処することで、健康な永久歯の維持が可能になります。
どうすればいいの?
大切なのは、ご自身のお子さんがエナメル質形成不全症かどうかを知ることです!そしてできるだけ早期に歯科医院にて、生え始めた永久歯の奥歯のエナメル質形成不全を発見してもらい、経過観察を始めましょう。もしエナメル質が欠けたり崩れたりしたら、レジンと呼ばれるプラスチック材料を用いて補強していきます。大きく崩れる前に小さな補強をすることで、できるだけ長持ちさせることが重要です。こうして失われていくエナメル質をレジンで補いながら、お子さんのお口の成長と完成を待ち、本格的に被せ物が必要になるタイミングを遅らせることができます。そうすることで、最終的な治療のやり変えを減らすことができます。エナメル質形成不全症でも、早めに気づいて定期的にメンテナンスに通っていただければ、予防や小さな処置などできることはたくさんあります。
悩みこまないで、まずはご相談を!
「歯磨きを丁寧にしているのに・・・」「なんでこんなに虫歯ばっかり・・・」とお悩みの方、いらっしゃいませんでしょうか?もしかしたらそれはエナメル質形成不全症かもしれません。そうであれば、原因はお子様の歯磨き不足のせいでも、ご家族の努力不足のせいでもありません。
エナメル質形成不全症をご家庭の努力で守るのは大変難しいものです。当院では、子供矯正治療が盛んに行なわれていることもあり、定期検診にも力を入れております。ぜひ、一度ご相談ください!
参考文献
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4. Tailor B, et al. Molar-Incisor Hypomineralization. (Mih): An Unusual Case With Literature Review. Advances in Medical and Dental Sciences 6(1): 6-10, 2017