電子タバコは歯に悪いのか? | スマイルデザイン吉田歯科

2024.12.26

電子タバコは歯に悪いのか?

患者さんからの質問で、治療の際に「加熱式タバコを吸っているけど、治療に影響はあるのか?」というものがあります。

 

 

最近、従来のタバコの代用品として、「加熱式タバコ」「電子タバコ」と呼ばれるようなものが表に出てきました。

電子喫煙装置の始まりは、1965年のアメリカとされており、古くから構想自体はあったようです。現在のような形になったのは2005年からで、中国の発明家であるHon Likがアメリカで特許を取得した頃からです。ちなみにこの商品は、彼のヘビースモーカーだった父親が肺がんで亡くなった後に発明されました。

 

「加熱式タバコ」の代表ともいえる商品は、皆さんご存知の「IQOS」ですね。こちらは上記を吸引するという点においては同じですが、ニコチンを摂取することを目的としたものになります。

「電子タバコ」「VAPE」と呼ばれ、ニコチン・タールフリーで豊富なフレーバーを楽しめるというのが売りで、喫煙者・非喫煙者を問わず幅広い層から人気を集めています。海外ではニコチン入りの「VAPE」も存在しますが、日本では一般的には流通していません。 

 

 

従来のタバコと比べて、電子タバコや加熱式タバコは、歯科領域である口の中に対してどのような影響があるのでしょうか?

従来のタバコの煙の中には、既に知られている70種類の発がん性物質を含む10,000~100,000相当の化学物質が含まれています。電子タバコにおいても、鉛・ニッケル・クロムなどの毒素は含まれていますが、従来のタバコと比べるとはるかに少ない量とされています。Goniewiczらの研究では、12のブランドの電子タバコを調べたところ、毒素のレベルは、従来のタバコの9~450分の1程度と非常に少ない値を示しました。

▼電子タバコの歯周病リスクについて

 

電子タバコは、その使用が増加する中で、歯周病への影響についても注目されています。紙巻きタバコと同様に歯周病のリスクがあるのか、疑問に思われる方も多いのではないでしょうか。ここでは、電子タバコの歯周病リスクについて、科学的な根拠をもとに解説します。

 

◎電子タバコの成分とその影響

 

まず、日本で販売されている電子タバコの多くは、ニコチンを含まないリキッドを使用しています。ニコチンを含む製品は医薬品医療機器等法の規制を受けるため、市場には基本的にニコチンゼロの電子タバコが流通しています。このことから、一見すると電子タバコは歯周病リスクが低いように思えます。しかし、実際にはそれほど単純ではありません。

 

電子タバコのリキッドには、食品添加物として使用されることの多い植物性グリセリンやプロピレングリコールが含まれています。これらの成分は食品や化粧品などの基材として広く使われており、その点では高い安全性が認められています。ただし、これらは「食品添加物として口から摂取する場合に安全である」ということに過ぎず、加熱して吸引した場合の影響については不明瞭な部分が残ります。特に、これらの物質を加熱し、蒸気として肺や口内に取り込む際に、歯周組織へ与える影響については慎重に考える必要があります。

 

◎電子タバコ利用者の歯周病リスク

 

ニューヨーク大学の研究チームが発表した論文によれば、電子タバコを使用する人々の口腔内には、歯周病の進行に関与する細菌が非喫煙者に比べて多く存在することが確認されています。この研究では、電子タバコを使用することで、口腔内の環境が変化し、歯周病を引き起こす原因菌が増殖しやすくなることが示唆されています。このため、電子タバコは紙巻きタバコほどの強いリスクではないにせよ、歯周病リスクを高める可能性があると考えられます。

 

電子タバコの使用により、唾液の分泌量が減少することも報告されています。唾液には口腔内の自浄作用を担う重要な役割があり、細菌の増殖を抑制する効果があります。しかし、電子タバコの使用が唾液の分泌を抑えてしまうと、結果的に口腔内の細菌バランスが崩れ、歯周病のリスクが高まる可能性があります。

 

◎歯周病リスク軽減のために

 

歯周病は、歯ぐきや歯を支える骨に炎症を引き起こし、進行することで歯を失う原因となる疾患です。この疾患は、初期段階では症状が軽微で気づきにくいため、定期的な歯科受診による早期発見と治療が非常に重要です。電子タバコの使用によって歯周病リスクが高まることが指摘されている以上、使用者は特に日頃の口腔ケアを徹底する必要があります。

 

電子タバコの使用を控えることも、歯周病リスク軽減のために有効です。電子タバコの成分が口腔内の細菌バランスに悪影響を及ぼす可能性があるため、電子タバコを含むあらゆる喫煙行為を減らすことが、健康な歯ぐきを維持するための一助となります。禁煙を考える際には、歯科医師や禁煙外来の医師と相談し、必要なサポートを受けながら進めることが効果的です。

 

電子タバコは紙巻きタバコに比べて健康リスクが低いとされることが多いですが、歯周病の観点から見ても決して無害ではありません。特に歯ぐきや歯を支える組織に対しては、長期間の使用が悪影響を及ぼす可能性があり、リスクを軽視することは危険です。ご自身の健康を守るためには、電子タバコの使用がもたらすリスクを正しく理解し、適切な対策を講じることが不可欠です。これには、日々の口腔ケアの徹底、歯科医院での定期的な診察・クリーニングの受診、そして電子タバコを含む喫煙行為の見直しが含まれます。

 

 

ここまで従来のタバコと比較した加熱式タバコや電子タバコの利点を述べてきました。しかし、残念ながら喫煙であることには変わりがありません。着色という点に関しては、従来のタバコと比べ、タールの量が少ないということもあり、ヤニがつきにくいという「ささやかな利点」がありますが、治療の際には、骨や歯ぐきの治癒が遅くなるというリスクが依然として伴います。特に、インプラントや歯周外科などの処置を行う必要性がある場合は、喫煙の有無が手術の成功率に直結します。

 

従来のタバコはもちろんのこと、加熱式タバコや電子タバコを嗜む方についても、歯科治療を受ける際は十分相談の上、治療法を選択していただければと思います。当院では、患者さんにそれぞれにぴったりの治療法を選んでいただいた上で、進めていく準備があります。ぜひ一度ご相談ください!

 

 

参考文献

1.Herbert G. Smokeless non-tobacco cigarette (US3200819 A). 1965.

2.Hon L. Electronic atomization cigarette (US7832410 B2). 2010.

3.National Institute of Dental and Craniofacial Research (NIDCR). Effects of E-cigarette aerosol mixtures on oral and periodontal epithelia.

4.Jensen RP, Luo W, Pankow JF, et al. Hidden Formaldehyde in E-Cigarette Aerosols. New England Journal of Medicine 2015;372:392–4. doi:10.1056/NEJMc1413069

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